接骨院でアウェイになる

しばらく更新していなかったのは、SHERLOCKのスペシャルにかまけていたからではなくて、骨折していたからだ。

 

正確に言うと、骨折していた「らしい」。

足の甲をひねってしまい、3週間ほど経っても腫れがひかないので近所の接骨院に行ってみたところ、「これは折れてたはずだ」という診断だった。

剥離骨折というやつで、折れたというよりは、筋肉に負担がかかったついでにそこにくっついてる小さい骨がポロッと取れたらしい。

 

そこから先は非難の嵐である。なんでもっと早く来なかった、なんでもっと早く医者に行かなかったんだ、と、あっちこっちで怒られまくりだ。

しかし、こちとら天下のインドア派、怪我の素人である。どのくらい痛ければ捻挫で、どこからが骨折なのかなんてわからない。我慢できる痛みだから医者に行かず、腫れがひかないから接骨院にかかったまでのことだ。

 

……そう開き直れるのはここが医者も職場の人も家族も見ていないブログだからで、現実では、久しぶりにアウェイの不安を味わった。

 

かつて、私はいつでも自分がアウェイにいると感じていた。

「邦楽はダサくて洋楽はカッコいい」という理屈がわからなかった。

「○○ちゃんは△△くんのことが好き」など、皆が「見ればわかる」と言うことが見てもわからなかった。

母に料理を教わっている時の「だいたい」とか「いい加減に」とかがわからなかった。

 

大人になるにつれて、なんとなくわかってきた。

洋楽カッコいい論に、特に根拠はない。誰が誰を好きか推測するのに必要なのは、視覚ではなく興味。「だいたい」や「いい加減」は、経験で身につける。私は異端者だったわけではなく、単にレトリックの理解力が欠けていたのだ。

 

しかし、人生半ばにして圧倒的な「世界と私の間に立ちはだかる壁」に直面している。はっきり言うと、接骨医と全く話が通じない。

 

コミュニケーションの困難さは、以前歯科医にかかった時にも感じていた。

「痛かったら言ってください」と言われたのでどのように痛いか説明しようとすると、「そんなはずはないです」と言われてしまう。

痛みを説明するのって、ものすごく難しい。

変に凝った言葉遣いをしようとせず、素直に、シンプルに伝えようとするのだが、いつの間にか「医者に喜んでもらうために」正解を探しているような気がしてくる。

今回も、そんなに痛くないから来なかったはずが「痛いはずだよ」と言われると、なんか痛くなきゃ申し訳ないような気がしてくる。「痛いはずなのに痛くない」ことが、重要な病気や怪我の発見につながるんじゃないか?という思いもちょっとあるので、正直に「そんなに痛くない」と言いたいのだが、圧倒的な「お前よりオレのほうがよくわかってる」オーラの前に、なす術もない。私の体なのに。

 

落ち着け、私。過去を振り返れ。家族を、教師を、友人を、上司を、ネットの人を振り返れ。「オレはわかってるオーラ」なんて、大抵はこけおどしだったではないか。そのこけおどしのために無駄に傷ついて、無駄に萎縮してきたじゃないか。

 

ただ、お医者さんにとっても私はイヤな患者だろうなと思う。

3週間も放っておく時点で、自分の体に興味がない奴、と思うだろう。

それは、体というものに興味を持って今の職業を選んだ人にとっては、ある種の侮辱なのかもしれない。自分の体すら愛していないお前に、オレの仕事がわかってたまるか、お前の体はお前が責任を持つべきなのに、おざなりにしておいて「さあ治せ」と開き直られても困るぞ、といったところか。

 

お医者さんは「体」のプロなのだから、「言葉」に固執してウジウジしても、仕方ないことなのだ。

それにしても話、通じねえ。もう考えるのが面倒になってきたので、電気治療の間、脳の暇さを紛らすため「おそ松さんをハリウッド映画化するとしたら誰をキャスティングするか」を延々妄想することにした。

チビ太役はマーティン・フリーマンにオファー。この人以外ない。断られたらこの企画は白紙に戻す覚悟である(※もともと白紙です)。

五男役でオーディションを受けに来たクリス・ヘムズワースがまさかの長男役を射止め、六男役は紆余曲折を経てベン・ウィショーに。 ←NEW!

 

……この辺りで思い出した。幼少期の私は、圧倒的なアウェイの人生を、妄想で暇つぶししていた。いつの間にか学生になり、受験生になり、大人になってやりたいことらしきことを見つけ、忙しくしているつもりだったが、本職(?)はこっちではなかったか。

どうせ私はこの世界の正社員にはなれないのだ。派遣とかパートとかバイトですらない。ひたすら終わるのを待ってる子どもが、私の「そもそも」だったのではないか。

とりあえず、長男と次男と三男と四男と五男のキャスティングで完治まで持ち込むつもりである。

 

 

 

 

 


概要 | プライバシーポリシー | サイトマップ
Copyright © 21世紀探偵 All Rights Reserved.