私の思い出のマーニー

盆休みも中盤。アパートの駐車場に出たら、近所の小学生に、出会い頭にいきなり「思い出のマーニー」のオチを言われた。

お母さんが「それは『ネタバレ』といって、たいへんいけないことなのだ」と叱っていたのが少し面白かったが、原作未読の私としてはこれ以上ネタバレされないうちに観たほうがよさそうなので、その足でレイトショーに行くことにした。

 

私はなぜか壮大な話が苦手な子供で、どんな映画が好きか、と聞かれると、「なるべく何も起こらない話がいい」と答えて大人を困らせていた。特に、映画の面白さは劇中の爆発の規模に比例すると思っている父は、娘の嗜好の掴みどころのなさに困惑したらしい。

具体的に言うと、ジブリ映画では『ナウシカ』や『もののけ姫』よりも『トトロ』や『魔女の宅急便』が好きだ。

『マーニー』は、何も起こらないけれど、主人公から見える世界の何もかもが変わる話だ。たぶん、杏奈と同じ世代の子供の多くが、こういう劇的な世界の変化を待っている。

杏奈は悩んでいる。冒頭でいきなり鉛筆をへし折るくらいイライラしてる。ナイフみたいにとがっては触るもの皆傷つけた、とはこういう状態だ。

何もしなくては何も変わらない、だから行動しなさい、と行動できる人はいう。でも、行動できない人は、動けないから悩んでいるのだ。それでいいと思う。悩んでいるだけでも、頭の中では次々に変化が起こる。空に嵐が来て晴れるみたいに、海に潮が引いて満ちるみたいに。ちゃんと、自分の世界は動く。何もしないでぐだぐだ考えているのは、苦しいけれど、決して無駄な時間ではない。

悩むのはやめて、とか、あなたはひとりじゃないよ、と言ってくれる人はいたほうがいい。でも、一人きりで思う存分悩むのも、必要なことだ。

これは私の解釈だけれど、助けやきっかけを与えてもらったにしても、杏奈は一人でちゃんと悩み終えたんだと思う。

 

ところで、夜10時を過ぎると映画館が入っているショッピングモールが閉まってしまう。開放されている出口はひとつしかないので、反対側の駐車場を利用した場合、巨大な建物をまくように半周歩かなくてはならない。カップル客ならそれも良かろうが、女一人客は舌打ちしたくなる。

カップルの皆さんの邪魔をしないように、かつ、これからご出勤と思われる暴走族の皆さんになるべく近寄らないように、結構な距離をウォーキングして駐車場に戻ると、私のほかにもう一人いた女一人客が、なぜか前を歩いていた。

彼女が私のマーニーだと思う。たぶんイオンモールから離れられないと思うので、声はかけなかった。以上が今年の私の夏の思い出である。

 


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