スプーンおばさんの女子力

NHKで朝放送している「あさイチ」という情報番組がある。昨夜「夜だけど…あさイチ」として放映されたので、なんとなく観ていたら、「家庭内別居」というディープなテーマだった。

 

まともに話を聞いてもらえず、人間としての尊厳を失っていく奥さん。

仕事だけでも辛いのに家でも安らげず、居場所を失っていく旦那さん。

私は独身なので、どちらの言い分も一理あるように感じて、観ていて2人分辛い。さらに、そんな環境で暮らさなければならない子供の気持ちを思うと3人分辛い(いずれも、1人分が当事者の何億分の一ではあると思うけれど)。そりゃ別れた方がいいだろうよ、所詮別々の人間なんだから、我慢なしで快適に生きてこうなんて無理なんだよ、もう皆別れちゃえよ、と世知辛い気持ちになっていたところで、今日群馬テレビで、アニメ「小さなスプーンおばさん」第一話の再放映を見た。

 

スプーンおばさんは、頭が固くて怒りっぽいご亭主と暮らしている。

洗濯中突然小さくなって、洗濯ものの下じきになってしまう。

おじさんは、妻が小さくなったことに気づかず、突然いなくなったことにぷりぷりしながら仕事に出かけてしまう。小さくなったおばさんは必死で洗濯ものの下から出てくるが、第一声が「たいへん、これじゃお洗濯できないわあ~」である。

夫の無理解とか家事労働の理不尽とか、そこにはない。いや、あるかもしれないんだけど、おばさんにそういう発想がないので、存在しないことになる。

結局おばさんは、動物たちの力を借りて(小さくなると動物と話ができる。こちらも結構なミラクルだが、おばさんは『あんた私の話がわかるのね。ちょうどいいからこのかごを押してちょうだい』とあくまで洗濯最優先)、洗濯を完遂する。

 

おばさんは、時々小さくなるという事実をおじさんに隠している。

その理由を私は知らなかったのだが、「あの人は気が小さいから、小さくなった私を見たら腰を抜かしちまうわ」と言ったきりだった。

結局、病院にも行かず、警察にも知らせず、ダンナにも相談せず、「今日はいろいろあって楽しかったわ~」で第一話は終わる。

 

おじさんは、休みの日に1人で釣りに行ってしまったり、むっつりして朝ご飯を食べなかったり、なかなか家庭内別居の素質がある感じなんだが、おばさんは一切気にしない。

いつ小さくなるかわからないというリスクを抱えながらも、おじさんの失くした帽子を探してあげたり、好物のジャムを作ってあげるために野イチゴを摘みにいったりするのだが、全然「夫のために割を食ってる」感じがしない。

勝手に行動して、勝手にトラブルを起こして、勝手に解決する。

一話につき確実に二~三度は死の淵に立たされてる気がするが、最後はいつも「今日も一日楽しかった!」で終わる。

 

何というかもう、ダンナどうこうではなく、人間として強いのである。言い換えると視野が狭くて自分勝手で鈍感なのかもしれないが、とにかく強いのだ。

そして、ダンナとして一切いいとこがなさそうなおじさんは、なんだか可愛い。

おばさんには「大きな赤ちゃん」などと言われているが、おじさんはおじさんで、この奥さんにはわかってもらえないような繊細さや神経質さがあると思う。細かいことはわからないが、引きでみると、頑固な亭主と陽気な奥さんで「お似合いの夫婦」だ。

 

漫画と一緒にするな、と言われてしまえばそれまでなのだけれど、私は漫画の登場人物にも、見えていないところに細かい心の動きがあるはずだと思うし、逆に、細かく色々と考えてしまう現実の人間が、自分や周りの人々を、漫画のキャラクターを見るように「引きで」見ることも時々役に立つんじゃないかと思う。

私は人に厳しく自分に甘いし、邪推してしまうし、重箱の隅をつつく癖があるし、すぐに『あっちの道の方が良かったんじゃないか』と後悔したりするから、もし結婚したら、家庭内別居や離婚の種を山のように見つけてしまうんだろう。

そういう自分との付き合いもいい加減長いので、今更否定したいわけではないけれど、スプーンおばさんみたいに、なんだかよくわからないけど一日楽しかったわ~とさばさば言えるような私もいると、もっといいと思う。

 

そういえば、私は原作も愛読していた。(例によって図書館で読んだので記憶違いかもしれないが、原作のおじさんはおばさんが小さくなることを知っていたと思う。アニメも後半はそうだったかもしれない)

小学生の頃の記憶だが、唯一はっきり覚えているのが、おばさんを怒らせたおじさんが、「冷たい魚だんごとジャガイモの皮」しか食べさせてもらえない、というくだりだ。

冷たい魚だんごがどんな料理なのか、未だに気になっている。ジャガイモの皮に関しては、おじさんのために誤訳であってほしいと祈りたい。

何の話だかわからなくなったが、まあスプーンおばさん夫婦にも色々あるのだ。多分。

 


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