喫茶店めぐり

日頃コーヒーばかり飲んでいるが、Rさんには日本茶カフェや紅茶専門店にも連れて行っていただいた。

 

日本茶は、丁寧に淹れてその味を全部引き出すと、すごくうま味が強いのだと知った。舌の両側でうま味を強く感じる気がしたのだが、調べてみたら舌の上で味覚を感じる場所が分かれているわけではないらしい。錯覚か。

それにしても旅の途中に煎茶と和菓子はいい。胃がもたれず、頭がしゃっきりする感じ。お菓子は、ご主人が日本全国からお取り寄せした7~8品から選べて楽しい。柑橘類の皮の入った、きれいな緑の羊羹を選んだ。

ソファがいくつかあるだけのそっけないインテリアだけど、とても落ち着く。ソファはほとんど窓に向いていて、お店はひんやりと静か。近所のお店の人がひっきりなしに現れては、お茶を味わって、置いてある本をめくったり、目を閉じたりして一息ついていた。

 

ムレスナでは、本当に驚いた。

アイスミルクティーが一杯1500円くらいするけれど、ケチではないがコストパフォーマンスにやたら厳しいRさんが納得していることに納得。これ一杯に、ケーキと紅茶のセット3つ分くらいのおいしさが入っている。何でも、普通の紅茶3杯分くらいの茶葉を使っているらしい。

紅茶の苦みや渋み、ミルクの臭みなどのマイナス要素を取り除いて、香り、こく、甘みなどいいところだけ凝縮したような、奇跡の一杯。

紅茶にこだわる人は、果物などの香りがついているフレーバーティーをあまり好まないと思う。それに、アイスティーじゃなくて香りが出やすいホットを選ぶんじゃないだろうか。

Rさんもホットミルクティーを薦めようとしていたのだけど、お店のお兄さんは控えめに、しかし断固としてアイスミルクティーを飲ませたがっていた。メニューにアイスミルクティーは一種類しかなかったが、お兄さんは私たちとの会話の中で、好みはもちろん、暑い中を荷物を持って歩いてきたこととか、旅行の二日目であることとか、普段はコーヒーが好きなこととか、周到に聞き出して、Rさんにはキャラメル、私には苺の風味のついた紅茶でアイスミルクティーを作ってくれた。

これが、飛び上がるほどおいしかった。交換して飲んでもやっぱりおいしかったけど、最後はやっぱりそれぞれ自分のものに落ち着いた。問診には意味があったのだ。

アイスミルクティーにはホットティーがついてくる、という変なシステムで、最初は首を傾げたが、大きなカップが渡されて、お店の人が次々に色々なフレーバーを試させてくれる。すべての紅茶に、開発した時の苦労話とか、意外な飲み方とか、物語があるのだった。

あたたかく、薫り高い紅茶を何杯も試して、話に夢中になっている間も、アイスティーのおいしさは入っている氷に全然負けない。

 

人を静かな気持ちにさせる店も饒舌にさせる店もあるが、お店の人に、お客さんに対する思いやりのようなものを感じると、どっちでも居心地がいい。よく来たね、おいしいお茶を淹れてあげるから、楽しんでいってね、という顔をした人に迎えてもらえるのは、しみじみありがたい。

Rさんはすべて心得ていて、お店の人の気持ちを潰さないようにしている。お金を払ったんだからお客なんだ、と言わんばかりの態度はとらない。へつらったりはしないけど、傲慢でも事務的でもない。してはいけないような状況で何時間も長居したり、お店の雰囲気を壊すような声で話したりもしない。ちゃんと、お客さんの役割を演じているから、お店の人も気持ちよくお店の人の役割を全うしてくれる。


ドラマで見るバーや居酒屋さんでは、お客さんが本音をむき出しにして騒いだり、酔いつぶれる場面がよく描かれるけれど、私はそういう気の置けない人間関係を築くのが苦手で、ちょっとコンプレックスを感じていた。

気が小さいせいか、変に気を廻してしまい、くつろいでね、と言われても心からはくつろげない。世の中に使う人と使われる人がいるとしたら、私はとことん、使用人側の人間なんだと思う。同席した人が頼んだものを食べなかったり(居酒屋ではよくある)、大声でお店への不満を口にしたりすると冷や冷やして、お店の人の視線を気にしている。

いつか私もオープンマインドでお店の人に甘えられるようになるのかもしれないが、遠い未来の話になりそうだ。今は、Rさんとお店の人の距離感をかっこいいと感じる。

 

 

 



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