「夏休み、何してた?」という質問にはいつも答えにくい。
普段会えない人に会ったり、興味があるけれど時間がなくてできなかったことをしたり、充実してるつもりなのだが、私の場合その楽しさが家族や同僚に伝わりにくい。
正直に言うと、アメコミ嵌りたてで、サービスデーの度に淡々とアベンジャーズを観る夏だった。私の職場は8月比較的暇なので、退勤後は避暑を兼ねて映画館に通った(エアコン代と天秤にかけた上で、比較的料金が安い日だけだが)。
晩夏のある夜、ふっと確信した。通ってるのは、私だけじゃない。
・50代くらいの男性(いつも一番乗り)
・30過ぎくらいの男性(『スターウォーズ』宣伝J.J.エイブラムス監督の挨拶の前くらいのタイミングで入ってくる。スーツ姿)
・20代半ばくらいの男性二人組(いつも『映画泥棒』の直前くらいにポップコーンを抱えて入ってくる)
そして私。
他にカップル一組か二組くらいはいるのだが、レギュラーメンバーは固定されている。エンドロール後の「Avengers will return」まで席を立たないのはこの5人だけだし、終了後駐車場までとぼとぼ歩く(『私の想い出のマーニー』参照)メンバーも同じ5人だ。
こっち(観客)も毎週アッセンブル。言ってみればアベンジャーズ群馬支部である。
だったら私がナターシャではないか。胸より下腹が出ていようと、暖かい飲み物とレンタルブランケットが手放せず、上映前に念のためトイレに立つプレ更年期であろうと、遺伝子学上私が一番ナターシャ・ロマノフである。
最終上映(の直前のサービスデー)の夜、私は俄然「このメンバーをまとめたい」という気持ちになっていた。
なんとなく「また会いましたね……」というアイコンタクトを交わしながらも、駐車場までの長い道のりを無言で歩く、内気なマーベルおたく4人組、プラス私。縁あって同じ夏を過ごした仲間に交流をもたらすのは、紅一点の私の使命ではないか。
その時男子二人組の片割れが、しみじみとした声で相方に「終わっちゃうな」と話しかけた。すかさず私は、さりげなさを心がけつつ「終わっちゃいますねえ。よく通いましたね~」と割り込んだ。
「あ、おねえさん何回か会いましたよね。俺ら初日から来てました」
「実は俺も……」
駐車場までの無言の道行きは全員にとって気づまりだったようで、和やかに会話が始まった。思い切って話しかけてよかった。毎度気まずかった数分間が、一気に心楽しいものに変わった。
駐車場の入り口で、一番年嵩の男性が「じゃ、『アントマン』で会いましょう」と茶目っ気たっぷりに振り向いた。
するとスーツの男性が
「あ、私マーベル好きというわけではないので、次来るのはスターウォーズだと思います」
……わざわざ言わなくてもよくないか、それ。
そこで男子二人組が「俺らもアントマンはあんまり」
だから言わなくていいじゃん。おじさん気まずそうじゃん。
私に視線が集まる。
「えーと、アントマンは観に来ると思いますが、次にこんなに通うのはシビル・ウォーかも……」
途端に場の空気がほぐれた。皆、仕方なさそうな苦笑を浮かべた。
なんか、「所詮腐女子か」的な。
「どうせクリス・エヴァンスの尻観に来てるんだろ、わかってねえな」的な。被害妄想かもしれんが。
思ってたのと違うけど、紅一点の活躍によってなんとなく穏やかに解散し、我々の夏は終わったのだった。
結論:アベンジャーズ群馬支部は帰ってこない。
追記(2015年10月10日)
その後、『アントマン』上映で男子二人組の片割れと遭遇。
「ちくしょう、『アントマン』めちゃくちゃよかった~!」
「次におじさんに会ったら土下座して謝りましょう……」と反省しながら駐車場に向かったのだった。
結論:おじさんがキャプテン。